先に知っておきたいこと
PDFは「紙面の見た目」を固定した形式
PDFは、ページごとに文字や画像の位置が決まった形式です。一方、EPUBは、読む画面の大きさや文字サイズに合わせて文章が流れる(リフローする)ことを基本にしています。W3Cの解説でも、EPUBのコンテンツは、あらかじめ紙面を組むのではなく、表示する時点で整える前提だと説明されています。
この違いのため、PDFをEPUBにするときは、ページの枠に収まっていた文章を「流れる文章」に組み直すことになります。段落の切れ目や、ページの上下にある柱(ヘッダー・フッター)をツールが正しく判断できないと、崩れの原因になります。
Calibreのマニュアルも、PDFは入力に向かないと明記している
無料の電子書籍ソフトCalibreのマニュアルには、PDFは入力形式として「とても良くない形式」であること、複雑なもの、段組のもの、画像が中心のものには対応していないことが書かれています。ヘッダーやフッターが本文に混ざりやすいため、不要な部分を取り除く設定も用意されています。
つまり、ツールの性能というより、PDFという形式そのものが変換に向かないのです。
元のWord原稿があるなら、そちらから作る
PDFは、Wordなどの原稿から書き出したものであることが多いはずです。元の原稿が残っているなら、PDFを経由せず、原稿から直接EPUBにするほうが、見出しや段落の情報が残るぶん、崩れにくくなります。
KDPのPDF受付は、日本語を含まない
KDPのヘルプでは、eBookの原稿として受け付ける形式に、PDFも挙げられています。ただし、PDFを受け付ける言語は、英語・フランス語・ドイツ語・イタリア語・ポルトガル語・スペイン語・カタロニア語・ガリシア語・バスク語に限られています。日本語は、この一覧に含まれていません。
KDPで日本語の本を出す場合は、PDFのままではなく、Word(DOC/DOCX)やEPUBなどの形式にしておく必要があります。EPUBについては、KDPのヘルプに、Kindleの出版ガイドラインに合うEPUBを受け付けると書かれています。
方法1:Calibre(無料のソフト)で変換する
Calibreは、電子書籍の管理と変換ができる無料のソフトです。公式サイトによると、Windows・Mac・Linuxで使えます。PDFもEPUBに変換できます。
手順
- Calibreに、PDFを追加する
- 「本を変換」を選び、出力形式を「EPUB」にする
- 題名・著者・表紙などを確認する
- 必要に応じて、ヘッダー・フッターの除去や、行の結合(段落の判断)の設定を調整する
- 変換後のEPUBを、リーダーやKindle Previewerで開いて確認する
向いている場面
文章が中心で、段組が単純なPDF(小説、エッセイ、レポートなど)です。まず無料で試したい場合の入口になります。
注意点
- 複雑な段組、表の多い資料、画像が中心のPDFは、対象外と考えたほうが安全です
- 設定を変えても、完全に元どおりにはならないことがあります。変換後に、段落の切れ目・見出し・改ページを読んで確認します
- 見た目を細かく直すなら、EPUBの編集ソフトで仕上げる方法もあります(Sigilなど)
方法2:オンライン変換サービスを使う
ブラウザでPDFをアップロードし、EPUBでダウンロードする方法です。インストールが不要で、1回だけ試したいときに手軽です。
気をつける点は次のとおりです。
- ファイルを外部のサーバーに送るため、未発表の原稿や、個人情報を含む資料には慎重になる。利用前に、利用規約とファイルの扱いを確認する
- 無料で使えるファイルサイズや変換回数に制限がある場合が多い。サービスごとに異なり、変わることもあるので、利用時に各サービスの案内で確認する
- 仕組みの上では、Calibreと同じくPDFの構造に左右される。サービスによって、見出しや段落の扱いに差が出る
方法3:Word(文書)に直してから、EPUBにする
PDFをいったんWordの文書に直し、そのWordからEPUBに変換する方法です。PDFをWordに変換する機能を持つソフトは複数あります。見出しや段落のスタイルをWordで整えてから変換できるのが利点です。
- PDFからWordに直す段階で崩れることがあるため、Wordで開いたあとに、見出し・改行・表を確認して直す手間がかかる
- Wordで整えたあとは、WordをEPUBに変換する方法の手順に進める
この方法は、PDFから直接EPUBにするより、直しやすい場所(Word)で整えてから変換できるのが利点です。ただし、PDFからWordへの変換の質は、使うソフトとPDFの内容によって変わります。
変換でよく起きること
レイアウトが崩れる
表の列が崩れる、画像の位置が飛ぶ、余白が広すぎる、といった状態です。紙面の見た目が大事な資料(パンフレット、論文、マニュアルなど)ほど、起きやすくなります。
見た目をそのまま残したい場合は、流れる文章のEPUBではなく、ページの見た目を固定する「固定レイアウト」のEPUBという考え方があります。W3Cの解説でも、絵本・漫画・雑誌のような、紙面の配置が大事なものには固定レイアウトを使えると説明されています。ただし、固定レイアウトは、ツールや作り方が別になります。
文字化けや、日本語の縦書き・ルビの欠落
PDFにフォントが埋め込まれていないと、変換のときに別のフォントに置き換わることがあります。縦書きやルビ(ふりがな)が、横書きになったり、消えたりすることもあります。日本語の本では、変換後に、縦書きの向き・ルビの位置・文字の欠けを、自分の目で確かめてください。
画像だけのPDF(スキャンしたPDF)
ページを写真のように取り込んだPDFは、文字情報がありません。文字を読み取る処理(OCR)が済んでいないと、EPUBに変換しても文章になりません。なお、Calibreのマニュアルには、ページの写真の裏に文字が埋め込まれているPDFがあることは書かれていますが、OCRの機能は説明されていません。
DRM(著作権保護)が付いているPDF
市販の電子書籍や教材のPDFには、DRM(デジタル著作権管理)が付いていて、変換が制限されているものがあります。保護を外して変換することは、法律上の問題になるおそれがあります。出版社や配信サービスが、正規のEPUB版を用意していないか確認するのが基本です。
自分で作った本にDRMを付けるかどうかは、KDPでは出版者が選べます。KDPのヘルプでは、DRMを付けるとKindleのアプリと端末でのみ読める、付けない場合は購入者がEPUBやPDFをダウンロードできると説明されています(2026年1月20日からの案内)。
結論:目的で選べば迷わない
| 方法 | 費用 | 向いている人 | 気をつける点 |
|---|---|---|---|
| Calibre(ソフト) | 無料 | 文章中心のPDFを、手元で変換して確認したい | 複雑な段組・表・画像中心のPDFは向かない。段落・見出しの確認が必要 |
| オンライン変換サービス | 無料枠あり | 1回だけ、手軽に試したい | ファイルをアップロードする。サイズや回数の制限がある |
| Word経由 | ソフトによる | 見出しや段落を整えてから、きれいに変換したい | PDFからWordに直す段階で崩れることがある。手直しの手間がかかる |
どの方法でも、PDFの内容が単純なほど、うまくいきます。元のWord原稿が残っているなら、PDFからではなく原稿から作るのが、いちばん崩れにくい道です。
よくある質問
PDFをそのまま、KDPにアップロードできますか?
KDPのヘルプでは、PDFの受け付けは、英語やフランス語などの限られた言語です。日本語は含まれていません。日本語の本は、WordやEPUBなどで用意してください。
無料の方法で、PDFをきれいにEPUBにできますか?
文章が中心で、段組が単純なPDFなら、Calibreなどで試す価値があります。ただし、複雑な段組・表・画像が中心のPDFは、無料・有料にかかわらず崩れやすくなります。変換後の確認が欠かせません。
スキャンしたPDFもEPUBにできますか?
文字を読み取る処理(OCR)が済んでいる必要があります。画像だけのPDFは、そのままでは文章になりません。
変換したEPUBは、どこで確認すればよいですか?
リーダーのアプリと、KDPで出すならKindle Previewerです。Kindle Previewerは無料で、EPUBを開いて、タブレット・スマートフォン・電子書籍端末での見え方を確認できると、KDPのヘルプに書かれています。